NBAで最も価値あるスタッツは何か?PER、Win Shares、BPMを徹底比較解説

アナリティクス

「レブロン・ジェームズとマイケル・ジョーダン、全盛期の実力はどちらが上だったのか?」

「今年のMVPは、A選手よりもB選手がふさわしいのではないか?」

NBAファンである私たちは、友人や同僚と、こんな尽きることのない議論を交わすのが大好きだ。従来、その議論の根拠とされてきたのは、得点、リバウンド、アシストといった「伝統的なスタッツ(Box Score)」だった。しかし、試合を深く観れば観るほど、私たちは気づいてしまう。

「数字には表れない貢献」や「試合の流れを決定づけた、たった一つのプレー」の存在に。

現代のNBA分析の世界では、そうした目に見えない価値を可視化しようと、数多くの「アドヴァンスドスタッツ(Advanced Stats)」が生み出されてきた。

しかし、PER、Win Shares、BPM…アルファベット3文字の指標が多すぎて、正直よくわからない、という方も多いのではないだろうか。

この記事では、アドヴァンスドスタッツの中でも特に重要な3つの指標「PER」「Win Shares」「BPM」を、AIがそれぞれの成り立ちから長所・短所までを徹底的に解剖。最終的に、「最も価値あるスタッツとは何か?」という問いに対する、一つの答えを提示する。


第1章:PER (Player Efficiency Rating) – 「個人の生産性」を測る物差し

1-1. PERとは?

PERは、元ESPNの著名なコラムニスト、ジョン・ホリンガー氏によって考案された指標です。基本的な考え方は「1分間あたり、その選手がどれだけ効率的にプレーしたか」です。最大の特徴は、「ペース(試合展開の速さ)」で補正された分あたりの生産性であり、リーグ平均が常に15.0になるよう調整されている点です。

  • 15.0: リーグの平均的な選手
  • 20.0〜: オールスター級の選手
  • 25.0〜: MVP級の選手

1-2. PERの仕組み:何をどう評価しているのか?

PERは、選手のボックススコアを基に、ポジティブなプレーを足し算し、ネガティブなプレーを引き算することで算出されます。

  • 加算要素: FG成功、FT成功、アシスト、リバウンド、ブロック、スティール等
  • 減算要素: FG失敗、FT失敗、ターンオーバー、個人ファウル等

重要なのは、PERが「生産量に強く反応する(効率が並でもボリュームが大きいと上がりやすい)」という性質がある点です。

1-3. PERだけを見るときの危険性

PERだけを信じて選手を評価すると、いくつかの偏りが生じます。PERはスティールやブロック、ディフェンスリバウンドを加算しますが、ディフェンスの多く(特にオフボールでのポジショニングや抑止力)を評価しにくいという限界があります。そのため、ディフェンスの名手を過小評価し、効率的な役割選手(3&Dなど)の貢献を見落とす危険性があります。


第2章:Win Shares (WS) – 「チームの勝利」への貢献度

2-1. Win Sharesとは?

「その選手が、チームの勝利にどれだけ貢献したか」を勝利数で表す指標。NBAではチームの総WSがチームの勝利数とほぼ等しくなるよう設計されています。オフェンス貢献(OWS)とディフェンス貢献(DWS)の合計値です。

2-2. WSの仕組み:何をどう評価しているのか?

WSは、チームの勝利というパイを、各選手の貢献度に応じて切り分ける考え方に基づいています。

  • オフェンス貢献(OWS): 主に「Points Produced(選手が生み出した得点)」を評価します。
  • ディフェンス貢献(DWS): 主に「Defensive Rating(100ポゼッションあたりの失点)」を評価します。

出場時間の長さに左右されにくい指標として、48分あたりの貢献度を示すWS/48(リーグ平均は約0.100)も頻繁に用いられます。注:WSは“出場時間が長いほど積み上がる合計値”なので、時間依存を下げたいときはWS/48を見る、といった使い分けが有効です。

2-3. WSだけを見るときの危険性

WSは「勝利」に直結する分かりやすい指標ですが、所属チームの強さに大きく影響されます。 例えば、同じ能力の選手でも、70勝チームに所属する場合と、20勝の再建チームに所属する場合では、WSの数値は全く異なります。そのため、弱いチームで孤軍奮闘するエースの価値は正しく評価できないことがあります。


第3章:BPM (Box Plus/Minus) – 「コート上の影響力」を推定する

3-1. BPMとは?

その選手がコートにいる時、チームの得失点差を平均的な選手と比較して、100ポゼッションあたり何点上回るか、を推定した指標です。なお、本稿で扱うBPMは、2020年に数式が改訂されたBPM 2.0に基づいています。

  • 0.0: 平均的な選手
  • +5.0: オールスター級
  • +8.0: MVP級

3-2. BPMの仕組み:何をどう評価しているのか?

BPMは、選手のボックススコアの各項目が、チームの得失点にどれだけ影響を与えるかを統計的に分析して作られています。アシスト、スティール、ディフェンスリバウンド、ブロックといった、攻守の起点となるプレーの価値が非常に高く評価されます。

3-3. BPMだけを見るときの危険性

BPMは非常に優れた総合指標ですが、ボックススコアに現れない貢献、例えばスクリーンをかける動きや、相手のエースをタフなシュートに追い込むディフェンスなどを捉えることができません。そのため、スタッツに残らない貢献をするベテラン選手や、ディフェンス職人の価値は見落とされがちです。

ちなみに、BPMから派生した指標にVORP(Value Over Replacement Player)があります。これはBPMを出発点に“代替水準(−2.0)”からの上積みを積分した総量指標で、選手のシーズンを通した貢献度を測る総合指標として広く使われています。


第4章:ケーススタディ – 史上最も議論を呼んだMVP、ラッセル・ウェストブルック

3つの指標をどう使い分けるか。その最高の例が、2016-17シーズンにMVPを受賞したラッセル・ウェストブルックです。

【事実①】シュート効率は「リーグ平均以上」だった

彼のシュート効率を示すTS%は55.4%。これは、同シーズンのリーグ平均55.2%と比較して、「ごくわずかに上回る」レベルでした。MVP選手としては、決して高効率とは言えません。

【事実②】PERとBPMは歴史的な数値を記録

しかし、彼のPERは30.6、BPMは+11.1(BPM 2.0)と、どちらも依然としてMVP級の数値を記録しました。

  • PERの観点: 彼のシュートミスというマイナス要素を、歴史的な「量」のプラス要素(42回のトリプルダブル等)が完全に凌駕しました。
  • BPMの観点: ポイントガードでありながら異例に高いリバウンド率を記録するなど、得点以外のあらゆる面での異常な貢献を評価しました。

【分析】なぜ彼は「すごい」のか?

重要なのは、対戦相手の全ディフェンスが「ウェストブルックを止めろ」と彼一人に集中する極限のプレッシャーの中で、リーグ平均を上回る効率を維持したという点です。これは、通常の選手が記録する「リーグ平均」とは価値が異なります。

比較サマリー(表)

【PER】

項目 内容
測れるもの 個人の時間あたり生産性
長所 オフェンス能力が分かりやすい
短所 ディフェンスの多く(特にオフボールや抑止力)を評価しにくい
ウェストブルックの評価 〇:圧倒的な生産量を評価

【Win Shares】

項目 内容
測れるもの チーム勝利への貢献度
長所 攻守両面と耐久性を評価
短所 所属チームの強さに依存
ウェストブルックの評価 △:チーム成績が響き、控えめな評価

【BPM】

項目 内容
測れるもの 総合的なコート上の影響力
長所 バランスが良い、ペース非依存
短所 ボックススコアの限界がある
ウェストブルックの評価 ◎:総合的な支配力を最高レベルで評価

結論:結局、最も価値あるスタッツとは?

では、AIとしての私の結論は何か?

「最も価値のあるスタッツとは、”唯一絶対の指標”のことではない。あなたが『何を知りたいか』という問いに対して、最も的確な答えをくれる『物差し』のことである」

  • 純粋な個人の破壊力を知りたければ、PERを見るのがいいだろう。
  • シーズンを通したチームへの貢献と功績を知りたければ、Win Sharesが最適だ。
  • 攻守にわたる総合的な影響力を知りたければ、BPMが最もバランスの取れた答えをくれる。

真のNBA分析の面白さは、一つの完璧な答えを探すことではない。複数の異なる「物差し」を手に取り、様々な角度から選手やチームを眺め、自分だけの選手像を頭の中に描き出すことにある。

この記事が、あなたのNBA観戦を、ほんの少しでも深く、豊かなものにする一助となれば幸いだ。


【上級者向け】ボックススコアの先の世界へ

本稿では、ボックススコアから算出される3つの主要な指標に焦点を当てました。しかし、現代のNBA分析には、選手の出場・退場時の得失点差(on/off)をベースにした、さらに高度な指標群が存在します。RAPMEPMLEBRONなどがそれで、チームメイトや相手の強さを補正し、選手の純粋な影響力を測ろうとする試みです。これらについては、また別の機会に詳しく掘り下げていきましょう。

データ引用元: Basketball-Reference.com (Stathead)

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