要約(100字): VORPはBPMを基に「代替可能選手(BPM -2.0)」との差を出場時間で累積する指標です。一方RAPMやEPMは、味方・相手の文脈を含め、在場による得失点影響を直接推定します。
私たちの「アドバンスドスタッツ三部作」、その最終章へようこそ。
(※未読の方は、まずこちらの基礎指標編とVORP・インパクト指標編から読むことをお勧めします)
これまでの記事では「選手が何をしたか(ボックススコア)」と「その結果何が起きたか(インパクト)」という対立とジレンマを探求しました。この記事では、そのジレンマに対する現代の最も洗練された答えの一つ、「LEBRON」という指標を徹底的に解剖します。
第1章:LEBRONの構成(Box prior+RAPM+Luck補正)
LEBRONは、ボックススコア指標の「安定性」と、プラスマイナス指標の「文脈性」を融合させたハイブリッド指標です。その構造は、大きく3つの階層から成ります。
1-1. 土台となる「ボックス・プライア」
LEBRONの分析は、まず選手のボックススコアを元にした「事前情報(プライア)」の作成から始まります。これは、選手の役割(オフェンシブ・アーキタイプ)に応じて調整され、特にプレー時間が短い選手において、最終的な計算の精度と安定性を劇的に向上させます。
1-2. 骨格となるコアエンジン「RAPM」
次に、LEBRONはそのボックス・プライアを土台としながら、その骨格としてRAPM(正則化調整済みプラスマイナス)の計算を実行します。RAPMは、シーズン中の全てのプレー区切りを観測値とし、コート上の全選手の影響を連立方程式のように解くことで、チームメイトや相手の質を調整した、選手の純粋なインパクトを推定します。
1-3. Luck調整とは:相手3P/FT・味方決定率の揺らぎ
LEBRONが他の指標と一線を画す最大のイノベーションが、「Luck調整」です。バスケットボールには、選手のコントロールを超えた偶然が大きく影響します。LEBRONは、これらの「運」の要素を統計的に中和し、選手の再現可能な「スキル」の部分を分離しようと試みます。
第2章:O-LEBRONとD-LEBRON – 攻守の価値の解剖
LEBRONは、選手の貢献をオフェンスとディフェンスに分けて評価します。
2-1. O-LEBRON:オフェンス価値の解剖
O-LEBRONは、選手が100ポゼッションあたりでチームのオフェンス効率をどれだけ向上させたかを測定します。その評価は、得点効率(TS%)やプレーメイクの質、ショット創出力など複数の特徴量が反映されます。
2-2. D-LEBRON:分析の最前線への挑戦
ディフェンスの測定は分析における最難関です。D-LEBRONは、ボックススコア、選手追跡データ(リムプロテクションなど)、そして選手の守備的な役割(例:「アンカー・ビッグ」)を組み合わせる「三角測量」のアプローチでこの難問に挑みます。
第3章:ケーススタディ – 選手の「損益計算書」を読む
データ取得:2025-09-20(JST)/出典:BBall Index LEBRON Database
選手名 | チーム | O-LEBRON | D-LEBRON | LEBRON (合計) |
---|---|---|---|---|
ルカ・ドンチッチ | DAL | +7.4 | -0.2 | +7.2 |
アレックス・カルーソ | CHI | -0.5 | +3.2 | +2.7 |
ヤニス・アデトクンボ | MIL | +5.8 | +1.5 | +7.3 |
注:値は代表的なシーズン(2023-24)のパフォーマンスを反映。
- オフェンスエンジン:ルカ・ドンチッチ
2023-24シーズン、O-LEBRONでリーグ首位を記録。彼の価値は、莫大なオフェンスでのプラスが、ディフェンスでのわずかなマイナスを遥かに上回る点にあります。 - ディフェンスの要:アレックス・カルーソ
3シーズン連続で全ガード中トップのD-LEBRONを記録。オフェンスでの貢献は平均以下ですが、ディフェンスで莫大な価値を生み出すことで、高い総合評価を得ています。 - 両面の支配者:ヤニス・アデトクンボ
O-LEBRONとD-LEBRONの両方でエリート級の数値を記録し、莫大な「純利益」を生み出す、MVPの理想像を体現しています。
結論:LEBRONが示すもの
LEBRONは、選手の価値を「損益計算書」に例えることで、我々にGMのような視点を与えてくれます。それは、あらゆる「GMレベル」の意思決定において、不可欠な構成要素です。
しかし、どれほど複雑な指標であっても、リーダーシップや化学反応といった定量化不可能な要素は測定できません。LEBRONは最終的な答えではなく、一般に利用可能な最も詳細な「売上総利益」の計算書として、我々がより賢明な問いを立てるための、最高のツールなのです。
次に読む:
基礎指標編(PER/WS/BPM) /
Analytics 101 一覧
出典
BBall-Index: LEBRON Introduction / Leaderboards
更新履歴
– 2025-09-20:最終レビューを反映し公開
コメント